朝散歩(あさんぽ)
近くに住む陶芸家の藤吉さんは言う。
「俺が朝、散歩するときはなにも持たない。そういう無の時間で自分と向き合うのがいいわけよ。」
近くのカメラマンさとしさんは言う。
「海岸を歩いてると、たまにサーファーが海で落としたGoPro(カメラ)が流れついてることあるよ透君。」
僕は自分と向き合うために、朝散歩をすることにした。
なるほど本当に気持ちがいいものだ。
耳に入るのは波の音。
鳥の声。
とても心地よい。
欲を無くし、考える。
自分とは何なのか。
社会とは何なのか。
人間とは何なのか。
どこから来たのか。
どこへ行くのか。
いのちは?
静かに自分と向き合うと思う。
この身体は1つだけれど、心は1つではないのかもしれない。
自分の中に何人もの違った自分がいて、その自分たちが会話することが心なのではないか…。
ほら、耳をすませてごらん…。
無の時間の中で耳をすませば、心の声が聴こえてくることでしょう…。
「GoProあった?」
「GoProなくね?」
「もうちょい先まで行ってみようや」
「あった?」
「ないね。」
「いや、あるやろ。」
「埋まってない?」
「あれ違う?」
「違うな。」
「GoProないね。」
「GoProないな。」
GoProなかった。